トレーニングピークスのランニング時のTSS(rTSS)の計算は、オリジナルサイトの定義式に書かれている内容では測定される数値を再現できません。この定義式と実際の測定値(算出値)の不一致について、自分のランデータを用いて検証しました。
トレーニングピークスのランニング時のTSS(rTSS)の計算は、このように記載されています。
Running Training Stress Score (rTSS*) Explained より
この計算式は、変形するとrTSS = 100 x Duration[hrs] x IF[-]^2, IF = NGP/FTpとなります。
NGPはNormalized Graded Paceの略で、平均ペースを勾配で補正した値です。このNGPというものは、走行路の登りの比が大きればNGPはAverage Pace(AP)よりも速くなりますし、下りの比が大きければNGPはAPよりも遅くなります。
FTpはFunctional Threshold paceを表し、バイクのFTPと同じ概念、つまり閾値ペースになります。
では具体例を使って計算してみます。
FTp-4:30min/kmの人が、 NGP-5:00min/kmで走った場合を考えます。
IFは速さの比ですので、上記「1km当たりの時間」の逆数をとり、
IF=(1/5:00)/(1/4:30)=(1/300)/(1/270)=270/300=0.9
となります。
さてこのケースで30分走った場合、rTSSはいくつになるでしょうか。
rTSS = 100 x 0.5 x 0.9^2 = 40.5ですね?
いや、違うのです・・・。
Trainigpeaksでこれと同じ計算をさせた場合、このrTSSよりも大きな数値が算出されるはずです。でも、計算式は間違っていませんよね・・・。
そうです、おそらくこの推算式の記述が間違っているのです。
パワートレーニングバイブルのP.289には以下の記述があります。
自転車での100TSSは、ランニングでの100rTSSと同じです。
ランニングは、地上を脚で跳ねる動きなので、筋骨格系に構造上バイク以上の負荷(足が着地する際に体重に応じて作用する重力)がかかります。
ランで1時間Ftp(FTペース)で走行した場合は、バイクでの1時間走よりも高いトレーニングストレスがかかるので、回復にはより長い時間が必要です。
ですからランにおけるFTpでの約45分走がバイクにおけるFTPでの1時間走に相当します。(一部記述変更)
この記述を参考にして試しに60/45=1.333、つまり先に求めたrTSSを33%増にしてみましたが、その場合はrTSSが大きくなりすぎてしまいます。
おそらく「約45分」の部分が45分ではないのです。
そこで自分のトレーニング実績値から、補正項Cの計算式を導いてみました。補正項Cとは以下となります。
rTSS-C = 100 x Duration[hrs] x IF[-]^2 x C, IF = NGP/FTp
経験式となるので、適用範囲は明確にしておきます。
<前提>
FTp・・・4:42min/km
Duration(走行時間)・・・20分から5時間51分
データ点数・・・10点
NGP・・・Traingpeaksの算出値
わたしはGarmin735xtjを使ってランデータを測定していますが、Elevationデータが正確ではないようです。地形の高低差を実際よりも大きく見積もってしまうという問題があります。
ですので、NGPを算出する際、実際の登りと下りの比と同様であればNGPも同じになりますが、必ずしもそうではない可能性があります。
ここでは、どのNGPも同じような誤差を含んでいるものとして扱います。
簡単に言えば、地形の高低差のデータが怪しいのでNGP自体の絶対量は怪しいですが、データ間では怪しさは同じなので無視しますということです。
TrainigPeaksが導いたrTSSとrTSS-Cの比をとり、C=rTSS-C/rTSSを得ます。
先の引用から、「走っている時間が長いと、重力によって筋骨格が疲労してしまう」と考え、xに時間を、yにC値をとり、対数関数で近似してみました。
すると・・・・
なんと、かなりいい精度で近似線ができてしまいました。
y = 0.03ln(x) + 1.1074
この式をrTSS-C = 100 x Duration[hrs] x IF[-]^2 x Cに当てはめて検証するとトレーニングピークスの算出値と高精度で一致します。
この補正項Cを定性的に捉えると、
・先の”引用”では、ランニングFTp約45分がバイクFTP1時間相当と書いてありますが、わたしのFTp前提だと50-56分相当となります。
・20分と60分のラントレーニングを比較すると、C値は5%異なりますが、1時間と2時間では1%の違いになります
・ランの時間が長くなると、筋疲労の蓄積が大きくなりrTSSは大きくなるが、その増加具合は緩やかになります
こんなところでしょうか。
ちなみに、強度が高い場合でも、筋骨格疲労が促進されるのではないかと考え、IFとCとの相関もとってみました。
しかし、相関はありませんでした。(相関係数は出していませんが、近似式を出したところで再現性なしでしょう。)
まとめ
rTSSは以下のように算出できます。
rTSS = 100 x Duration[hrs] x IF[-]^2 x (0.03ln(Duration) + 1.1074)
適用範囲
0.333<Duration<6
FTP = nearly 4:42min/km
トレーニングピークスのソフトを使っていない方はこの補正を組み込んで、今までの計算結果をトレースできるか確認し、問題なけれは使ってください。
わたしのFTpよりも速い方(離れているほうが好ましい)で、データをお持ちの方はわたしに教えて下さい。
検証してみます。